ジョン・ピザレリとは ─ スウィングの伝道師
ギタリストであれば、一度は「スウィング」という言葉に心躍らせたことがあるだろう。コードのリズム、ウォーキングベース、スカッとしたシンコペーション。そのスウィングの美しさを、令和の時代にも変わらず伝え続ける男がいる。ジョン・ピザレリ、1960年生まれ、アメリカ・ニュージャージー州出身。ギターと歌を自在に操る、まさに「現代のスウィング・マスター」だ。
ジャズ一家に生まれた男
ジョンの音楽人生は、生まれた瞬間から始まっていたと言っていい。
父は名ギタリスト バッキー・ピザレリ。ビッグバンド全盛期のジャズ・ギターを支えた一流の職人だった。幼いジョンは、リビングに響く父の7弦ギターと、レコードに乗せて流れるナット・キング・コールやデューク・エリントンの音楽に囲まれて育つ。
家庭にはジャズミュージシャンが出入りし、時にはジャムセッションが始まる──そんな環境で、彼はギターを「練習する」のではなく、「生活の一部」として身につけていった。
ナット・キング・コールに憧れて
彼の人生を決定づけたのは、ナット・キング・コール・トリオの音源との出会いだった。
ピアノを弾きながら、甘い声でスウィングするナット。そのスタイルをギターと歌で再現しようとしたのが、ジョン・ピザレリだった。
のちに彼は、ナットへの愛を込めたアルバム 『Dear Mr. Cole』 を発表し、同時代のジャズファンから熱い支持を集めることになる。
ギタリストとしての実力 ─ 父譲りの7弦ギター・プレイ
父バッキー・ピザレリとの関係
ジョンは、父・バッキーのステージでギターを弾くところからキャリアをスタートした。父から譲り受けたのは、技術だけではない。「職人の美学」 とでも言うべき、音楽への真摯な姿勢だった。
父子の共演は数知れず、ライブやアルバムでその息の合ったプレイを聴くことができる。
7弦ギターの魔法 ─ 低音からコードワークまで
ジョン・ピザレリの特徴は、7弦ギター をメインに使っていること。
通常の6弦に加え、低音のB弦が追加されたこのギターは、ウォーキングベースラインを弾きながらコードを刻み、さらにメロディまで乗せる ことができる。
スウィング・ジャズの世界では、ギタリストがリズム楽器として裏方に回ることも多いが、ジョンはその裏方に「メロディ」と「リズム」の両方を与え、ギター1本で音楽を完成させてしまう。
スウィング&コンピングの美学
ジョンのギターは、派手なフレーズで驚かせるタイプではない。しかし、リズムの「間」 と、コンピング(伴奏)の粋 で、思わず身体が揺れてしまう。
スウィングとは「グルーヴ」であり「ノリ」である。
彼はそのグルーヴを、「誰が聴いても心地いい形」に磨き上げたプレイヤーなのだ。
ヴォーカル×ギター ─ 現代版ナット・キング・コール
シンプルで暖かい歌声
ギタリストとしても超一流のジョンだが、彼を唯一無二にしているのが 「歌声」 だろう。
派手なビブラートや過剰なテクニックはない。しかし、優しく包み込むような声質 と、語りかけるような歌い方 は、まさに「ジャズの入口」となる魅力がある。
ギターのグルーヴとヴォーカルの温かさが絡み合い、ライブでは観客が思わず笑顔になってしまう。
ギターとヴォーカルの一体感
ジョン・ピザレリのライブ映像を見ると分かるが、ギターと歌がまるで1つの楽器かのように絡み合っている。
コードを刻みながら、そのリズムに乗せて言葉を紡ぐ。ソロのフレーズに、スキャットで追いかける──その「遊び心」こそが彼の真骨頂だ。
ジョン・ピザレリのおすすめ音源
ここで、これからピザレリを聴こうと思ったギタリストに向けて、厳選アルバムを紹介したい。
入り口に最適 ─ 『Dear Mr. Cole』(1994)
ナット・キング・コールへのトリビュート作。
ジョンの音楽観がすべて詰まっている と言っていいアルバムで、優雅なスウィングと、ギター&ヴォーカルの魅力が存分に味わえる。
ジャズギター好きなら必聴 ─ 『Live at Birdland』(2003)
ニューヨークの名門ジャズクラブ「バードランド」でのライブ盤。
ライブならではのグルーヴ感、観客との掛け合い がたまらない。
ギタリストとしての彼の力量が生々しく伝わる1枚。
ボサノヴァファンも虜 ─ 『Bossa Nova』(2004)
ジョアン・ジルベルトに捧げたボサノヴァ・アルバム。
ギターワークの繊細さと、スウィングのリズム感が絶妙に融合している。ボサノヴァ好きのギタリストにとっても教科書的な作品。
ビートルズ好きに刺さる ─ 『Midnight McCartney』(2015)
ポール・マッカートニー公認のカヴァーアルバム。
ポールの名曲をジャズ・アレンジで解釈した意欲作で、「ジャズはちょっと敷居が高い」と思っている人でもすんなり楽しめる。
なぜギタリストはジョン・ピザレリを聴くべきか
ギターだけでなく「音楽そのもの」のセンス
ジョン・ピザレリを聴く最大の理由は、「ギターが上手い」だけではない。
音楽全体をどう味わい、どう届けるか──そのセンスが抜群なのだ。
スウィング・コンピングの参考書
ピザレリのギターは、ジャズのリズムギターとしての理想形 と言える。
シンプルでグルーヴィー、かつ洗練されたコンピングは、すべてのギタリストにとって「参考書」 になる。
ライブでしか味わえない「遊び心」
彼の真価はライブにある。
曲間の軽妙なMC、観客との掛け合い、即興のスキャット──すべてが「音楽って楽しい」と思わせてくれる時間だ。
これ見たらこの人の人柄、凄さ、楽しさ本当に伝わってきます! 最高のライブですね!
この動画の解説を翻訳してみましたよ☆
「2014年9月1日、デトロイト・ジャズ・フェスティバル最終日の最後の時間帯でした。ジョン、マーティン、バッキー・ピザレリとそのグループは、ピラミッド・ステージでの演奏を始めてわずか10分ほど経ったところで、雷雨の接近により運営側が全ての演奏を中止しました。嵐が到来すると観客は散り散りになり、私たち数名は雨を避けてステージ裏の出入口横にある部分的に屋根のある下層フロアに避難しました。この映像は、その後に起こった出来事です。ジョン、本当にありがとう!」
まとめ ─ 知れば知るほどクセになるスウィングの魔法
ジョン・ピザレリは、ギタリストであり、シンガーであり、スウィングの伝道師 である。
その音楽には、派手さはない。だが、一度耳を傾ければ、とんでもなく高度な技術が、肩肘張らずにさらりと鳴っていることに気づく。
もし、あなたが「知らない凄いギタリスト」を探しているなら、ピザレリはそのリストに入れるべき存在だ。
SpotifyでもYouTubeでも、まずは一曲──そして気づけばアルバムを何枚も聴いている自分に驚くはずだ。