圧倒的テクニックと情熱のギタリスト ─ ヌーノ・ベッテンコートのすべて

ハードロック

ギタリストとしての華麗なテクニックと、ジャンルを超えた音楽的センスで数多くのミュージシャンに影響を与えてきた男──その名はヌーノ・ベッテンコート。エクストリームのギタリストとして名を馳せ、ソロでも、またリアーナのバックでもステージに立つ彼は、今なおシーンの最前線で輝き続けています。今回は、そんなヌーノ・ベッテンコートの生い立ちから現在までを、一気に紹介します。

ポルトガルからアメリカへ ─ 少年ヌーノの旅立ち

ヌーノ・ベッテンコートは1966年9月20日、ポルトガル領アゾレス諸島の小さな町、プライア・ダ・ヴィトーリアに生まれました。10人兄弟の末っ子として育ち、4歳のときに一家はアメリカ・マサチューセッツ州ハドソンへ移住します。

幼い頃から音楽が身近にあったヌーノは、やがてギターにのめり込むようになります。彼にとってギターは、ただの楽器ではなく、自分を表現するための“言葉”そのものでした。エディ・ヴァン・ヘイレンの影響を大きく受けながらも、クラシックやファンク、フラメンコの要素も吸収し、早くから独自のスタイルを築いていきます。

◆ エクストリーム以前 ─ 下積み時代のヌーノ

エクストリームでの成功以前、ヌーノ・ベッテンコートは地元マサチューセッツ州を拠点に、いくつかのバンドを経験しながら腕を磨いていました。10代の頃からステージに立ち、兄ルイ・ベッテンコート(彼も優れたギタリスト)と共にバンド活動をしていたことで、自然と音楽のプロフェッショナルとしての自覚が芽生えていきます。

当初はドラムスに興味を持っていた時期もあり、リズムに対する鋭い感覚はこの頃の経験が活きていると語られています。しかし、まもなく彼はギターに完全に魅了され、練習漬けの毎日を送るようになりました。

◆ 当時の影響とスタイルの確立

ヌーノのギタースタイルは、エディ・ヴァン・ヘイレンやランディ・ローズといった当時のハードロック系ギタリストの影響を強く受けつつも、クラシック音楽やファンク、ジャズ、ラテンなどを独自にミックスしたユニークなものでした。特に右手のピッキング精度と左手のレガートによる滑らかなフレーズは、すでにこの頃から注目されていたほどです。

彼は自身のスタイルを「ギターで歌っているように感じさせたい」と語っており、メロディアスで構築美に富んだソロはこの哲学に貫かれています。

◆ 地元のシーンでの評判と転機

1980年代初頭、ボストンの音楽シーンでヌーノは“地元の天才ギタリスト”として噂される存在になっていました。そんな彼に転機が訪れるのが、後のエクストリームのメンバーであるゲイリー・シェローンとの出会いです。ゲイリーが加入していたバンド「The Dream」との共演をきっかけに、音楽的な相性の良さを感じた2人は、新たなバンドを立ち上げることを決意。

そして1985年、ヌーノ・ベッテンコートは「Extreme」に正式加入。ここから彼の本格的なプロミュージシャンとしてのキャリアがスタートします。


このように、ヌーノの“ギター職人”としての基礎が築かれたのは、エクストリーム以前の地元バンド時代にありました。彼の音楽性や姿勢には、この時期の経験が色濃く刻まれています。

◆ エクストリームでの成功──アルバムで振り返るバンドの軌跡

1985年、マサチューセッツ州ボストンで結成された**Extreme(エクストリーム)**は、ヴォーカルのゲイリー・シェローン、ギターのヌーノ・ベッテンコートを中心に、ファンク、メタル、ハードロックを融合させた独自のサウンドで注目を集めました。ヌーノのギタープレイは、バンドの楽曲を彩る核となる存在であり、90年代初頭のギターヒーローブームを象徴する存在でした。

ここでは、彼らの代表アルバムと活動を時系列で詳しくご紹介します。


🎧 1989年:1stアルバム『Extreme』

  • 代表曲: “Kid Ego”、”Little Girls”
  • 特徴: ファンク色の強いハードロック。エディ・ヴァン・ヘイレン直系の速弾きとリズムワークが全編に炸裂。
  • トピック: 商業的には控えめな滑り出しだったが、バンドのポテンシャルは高く評価されていた。

デビュー作では、当時のLAメタル全盛期の流れをくみつつ、よりファンキーでグルーヴィーなプレイを盛り込んだことで、他のバンドと一線を画しました。ヌーノのギターは、この時点ですでに「完成された個性」と言える存在感を放っていました。


🎧 1990年:2ndアルバム『Pornograffitti』

  • 代表曲: “More Than Words”(全米1位)、”Get the Funk Out”、”Decadence Dance”
  • 特徴: ファンク、ロック、バラードが高次元で融合。ヌーノの技巧とメロディアスなセンスが全開。
  • トピック: グラミー賞ノミネート。バンドのブレイクスルーとなる作品。

エクストリームの名前を世界中に知らしめた名盤。「More Than Words」はアコースティックギター1本とハーモニーで構成され、MTVを中心に爆発的ヒットを記録。ヌーノの卓越した右手ピッキングと、コードボイシングの美しさが際立つ名曲です。


🎧 1992年:3rdアルバム『III Sides to Every Story』

  • 代表曲: “Rest in Peace”、”Stop the World”、”Am I Ever Gonna Change”
  • 特徴: コンセプチュアルな三部構成(Yours, Mine, The Truth)。オーケストラも導入し、壮大な作品に。
  • トピック: 商業的には前作ほどヒットしなかったが、ファンや批評家からは「最高傑作」とも評価されている。

ハードロックとクラシカルな要素が交差する野心作。ヌーノのプレイはさらに進化し、ギターだけでなくストリングスアレンジやプロデュース能力まで発揮しています。


🎧 1995年:4thアルバム『Waiting for the Punchline』

  • 代表曲: “Hip Today”、”Cynical”
  • 特徴: グランジの影響を受け、よりダークでラフなサウンドにシフト。
  • トピック: メインストリームから離れたサウンドで、賛否が分かれた作品。

このアルバムを最後にヌーノはエクストリームを脱退。ソロや他プロジェクトに注力していきます。バンドも活動停止状態に入り、ヌーノは「Mourning Widows」や「DramaGods」などの新バンドで別の表現に挑戦していくことになります。


🎧 2008年:5thアルバム『Saudades de Rock』

  • 代表曲: “Star”、”Comfortably Dumb”
  • 特徴: 復活作ながらも円熟味を増したロックサウンド。原点回帰しつつモダンな仕上がり。
  • トピック: 長いブランクを経て、エクストリーム復活。

再結成したバンドの“第二幕”の始まり。ヌーノのプレイもより緻密かつ洗練されており、彼らが単なる懐メロバンドでないことを証明した1枚です。


🎧 2023年:6thアルバム『Six』

  • 代表曲: “Rise”、”Banshee”、”Other Side of the Rainbow”
  • 特徴: 最新型ヌーノ節炸裂のハイパーテクニカルな内容。ギターファン絶賛の作品。
  • トピック: 「Rise」のギターソロがYouTubeで話題となり、若年層ファンも急増。

15年ぶりの新作。ヌーノのギターが凄すぎて「ギター界のスーパーヒーロー」として再評価されるきっかけになりました。特に「Rise」のソロパートは、精密機械のようなタッピングとピッキングが融合し、“神がかり的”とも言われるほどの完成度です。

◆ ソロ活動とバンド遍歴──音楽を追い求める旅

1996年にエクストリームが一時解散した後、ヌーノはソロアルバム『Schizophonic』を発表。さらに「Mourning Widows」や「DramaGods」といったバンドを結成し、よりパーソナルで内省的な音楽に取り組みます。

2007年には、ペリー・ファレル率いるプロジェクト「Satellite Party」に参加し、アルバム『Ultra Payloaded』で現代的なエレクトロ・ロックに挑戦。

プロデューサーとしても活動の幅を広げ、タニトリックの「Hey Now」やトニ・ブラクストンのアルバム『Libra』への参加、さらには自身の音楽レーベルも設立しました。


◆ 提供楽曲と注目の共演──ジャネット・ジャクソン、リアーナとのつながり

1990年、ジャネット・ジャクソンのヒット曲「Black Cat」のシングル・バージョンでギターを担当し、この曲は全米1位を獲得。以降、彼のセッションギタリストとしての実力にも注目が集まります。

中でも話題になったのは、リアーナのツアーおよびスーパーボウル2023年のハーフタイムショーへの出演。世界的なポップスターのバックで堂々たる演奏を見せつけ、再び“世界のヌーノ”として脚光を浴びました。


◆ 再集結したエクストリーム──『Six』での完全復活

2023年、エクストリームは15年ぶりとなるニューアルバム『Six』をリリース。ギターファンの間で特に話題となったのが、収録曲「Rise」での超絶ギターソロ。YouTubeなどで数百万回再生され、「ヌーノ復活!」と称賛されました。

彼は近年のインタビューでも、「若い世代に向けて、ギターの魅力をもう一度伝えたい」と語っており、今後の活動にもますます注目が集まります。


◆ 私生活と素顔

1994年にオーストラリアのロックシンガー、スーズ・デマルキと結婚し、2人の子供をもうけますが、2013年に離婚。その後も音楽と家族のバランスを大切にしながら、地に足のついたライフスタイルを貫いています。

華やかなキャリアの裏には、愚直なまでに音楽を追い求める真摯な姿勢があり、彼の言葉や演奏からは、どんなときも「音を愛する人間」としての誠実さが伝わってきます。

◆ 初期の使用ギターと機材──音の職人が選んだ“武器”

◼︎ 初期のメインギター:Washburn N4

ヌーノといえば、やはりWashburn N4が代名詞。これは彼のシグネチャーモデルとして1990年に登場し、以来ずっとメイン機として使用されていますが、実は開発のきっかけとなったのは彼の初期の使用ギターでした。

エクストリーム初期には、KramerCharvelといったスーパーストラト系ギターも使っていましたが、より自分にフィットするギターを求めてWashburnと共同開発したのがN4です。オリジナルのN4には、以下のような特徴があります:

  • ボディ:アルダーボディ(またはスワンプアッシュ)
  • ピックアップ:Bill Lawrence L500(ブリッジ)+ Seymour Duncan ’59(ネック)
  • トレモロ:Floyd Rose(またはStealth)
  • コントロール:1ボリュームのみ、ノントーン仕様

ヌーノのスタイルにぴったりの「シンプルかつ鋭い音」が出せる設計になっており、ファンの間でもカルト的な人気を誇っています。


◼︎ アンプ・エフェクト

ヌーノのサウンドはギターだけでなく、アンプとエフェクトの選び方にも強いこだわりがあります。

  • アンプ: Randall、Bogner、Marshall(特にJCM800)を使用。近年はFractal Audio(Axe-Fx III)などのモデリングも導入。
  • エフェクト:
    • フェイザー/フランジャー:MXR Phase 90やEVHモデル
    • ディレイ/リバーブ:TC ElectronicやStrymon
    • コンプレッサー:BOSS CS-3など
    • ワウペダル:Jim Dunlop Cry Baby

しかし、彼はあくまで「指で作るトーン」に重きを置いており、「機材は音を飾る道具、プレイが主役」というスタンスを貫いています。


◆ ファッションとステージスタイル──ビジュアルも含めてヌーノ

ヌーノは音楽性だけでなく、ルックスやファッションセンスも魅力のひとつ。エクストリーム全盛期の1990年代初頭には、長髪にノースリーブのシャツ、レザーパンツ、そしてバンダナやブーツといった「L.A.メタル×ストリート」的な装いでステージに立っていました。

その後も時代に合わせてファッションは変化しており、

  • 2000年代:ストリート×ロックなカジュアル系(Tシャツ&スキニージーンズ)
  • 2010年代以降:モノトーンベースでスタイリッシュな印象に

ライブ時には筋肉質な体型を活かしたタンクトップ姿も多く、ギターを構えた佇まいだけで“様になる”数少ないギタリストと言えるでしょう。


🎸ちょっとした裏話:

  • 若い頃、ヌーノはオジー・オズボーンのバンドのオーディションに参加するため、デモテープを送っていたという逸話があります。
  • ファッションは母親の影響もあり「型にはまらないスタイル」が信条。ステージ衣装もほぼセルフコーディネートだそうです。

◆ ツアー活動と現在の動向

エクストリームは再始動以降もコンスタントにワールドツアーを展開しており、近年ではヨーロッパやアメリカを中心に精力的にライブ活動を続けています。最新アルバム『Six』に伴うツアーでは、若手バンドとの共演も多く、新たなファン層を取り込むことにも成功。

2025年には新作のリリースも検討中との報道があり、ヌーノ自身もインタビューで「常に進化し続けるエクストリームを見せたい」と語っています。


◆ まとめ──“ギターで語る男”ヌーノ・ベッテンコート

ヌーノ・ベッテンコートは、速弾きやテクニックだけでは語り尽くせないギタリストです。彼は「音楽のためにギターを弾く」ことに徹し、どんなジャンルでもその存在感を発揮してきました。

今もなお進化を止めない“現役のギターヒーロー”ヌーノ。あなたがギターを愛するなら──彼のプレイに触れずにはいられません。

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